LOGIN「レオポルト殿下、ちょっとよろしいでしょうか?」
「どうした?」
ある日、クレアがが話しかけてきた。
俺は彼女と二人きりで話し合うことに。
他の人物に聞かれるのは問題あるから。
「私、怖かったんです」
「何がだ?」
すると最初、クレアは俯きながら、言い淀んでいた。
少しずつ涙を流して、ぽつりぽつりと言葉を発していく。
明らかにただ事じゃ無い。
「責められている気がして。私が、ここにいてはいけないみたいで……」
とても悩んでいて、かなり辛そうにしている。
彼女はどうしてここまで。
「誰に?」
「ううん、私の思いすぎかもしれませんが。空気がどうしても怖い感じで」
確かにそう思うことはありえるだろう。
気まずい気持ちが、自分を追い詰めてしまうというのが。
「気にしすぎるな。大丈夫だ」
クレアに優しく言って、落ち着かせようとする。
「私、殿下のお邪魔でしたか?」
「そんなことはない」
クレアがいてくれるだけで、俺の公務だって少しは楽になっている。
心だって安心できるからな。
「でも、”身の程を知れ”って言われている気がして……」
「それってーー」
完全に一人しか思いつかなかった。
ーー思いついてしまった時点で、答えは決まっていた。
「ち、違います! あの方は私のために言っているのです!」
彼女は正しいことを言っている。
いじめてはいないかもしれない。
「だが」
「私よりも殿下が感情的にならないでください。私のために殿下が動いては、国が大変なことになります」
「……クレア」
「私がここにいるかどうかより、国の方が大切です」
クレアは俺を必死に止めようとしていた。
それはそうだが。
「大丈夫ですから。私、殿下や婚約者様のために王宮を出ますから」
どうしてそこまで俺の事を。それにユリアナを庇おうとしているなんて。
ユリアナよりも考えてくれるのに。
「そんなことをしなくていい。俺が守るからな」
「殿下、婚約者様を傷つけることだけはしないでください」
この状況においても、自分よりも彼女を優先しようとしていた。
「分かった」
クレアは微笑み、涙を拭こうとしていた。
俺はハンカチを渡して、手が汚れないようにする。
大事だからな、君も。
夜、俺は寝室の窓辺で夜風に当たっていた。
眠れなかったから。
寒すぎない、丁度良い風が吹いている。
悩みが大きくなっているのもあるが。
「俺は、ユリアナ嬢と婚約したままで良いのだろうか」
この迷いは、王太子として王としての問題に直結している。
あんなに正しい彼女であるが、それが気づけば圧力になっていた。
彼女には迷いを見せられない。
それははっきりと、心を疲れさせていた。
このままだと、本当に迷ってしまうことになる。
「彼女は正しい」
言葉のひとつひとつに、間違いは無い。
道筋だって見つけてもらっている。
でも、余裕だけを見つけさせてもらえなかった。
「彼女には他にも愛される男性がいるだろう」
無理に俺と縛り続けたって、良くはない。
彼女には彼女の人生がある。
ユリアナ嬢は公爵令嬢だ。
結婚したいと思っている令息は何人だっている。
それに他国だって、狙うだろう。
ならば、見つけられるうちにユリアナ嬢との婚約を破棄したっていいのかもしれない。
「これは、彼女のためだ」
ただ、本当にそうなのか?
そう思いたかっただけか?
俺が楽な方に考えているだけかもしれない。
水が高いところから低いところに流れるように、俺の心もそうなっているだけなのだろうか。
「ユリアナ……」
彼女は好きだけれども、俺は楽な方を選びたい。
王太子としての判断から逃げているつもりはない。
そう思い込もうとしていた。
「寝よう」
決断したら、眠くなってきた。
ベッドに入って眠りにつく。
この選択が、誰かを傷つけるのだとしても、今は考えないことにした。
「レオポルト殿下、ちょっとよろしいでしょうか?」「どうした?」 ある日、クレアがが話しかけてきた。 俺は彼女と二人きりで話し合うことに。 他の人物に聞かれるのは問題あるから。「私、怖かったんです」「何がだ?」 すると最初、クレアは俯きながら、言い淀んでいた。 少しずつ涙を流して、ぽつりぽつりと言葉を発していく。 明らかにただ事じゃ無い。「責められている気がして。私が、ここにいてはいけないみたいで……」 とても悩んでいて、かなり辛そうにしている。 彼女はどうしてここまで。「誰に?」「ううん、私の思いすぎかもしれませんが。空気がどうしても怖い感じで」 確かにそう思うことはありえるだろう。 気まずい気持ちが、自分を追い詰めてしまうというのが。「気にしすぎるな。大丈夫だ」 クレアに優しく言って、落ち着かせようとする。「私、殿下のお邪魔でしたか?」「そんなことはない」 クレアがいてくれるだけで、俺の公務だって少しは楽になっている。 心だって安心できるからな。「でも、”身の程を知れ”って言われている気がして……」「それってーー」 完全に一人しか思いつかなかった。 ーー思いついてしまった時点で、答えは決まっていた。「ち、違います! あの方は私のために言っているのです!」 彼女は正しいことを言っている。 いじめてはいないかもしれない。「だが」「私よりも殿下が感情的にならないでください。私のために殿下が動いては、国が大変なことになります」「……クレア」「私がここにいるかどうかより、国の方が大切です」 クレアは俺を必死に
あの時の俺は、あれが最善の判断だと、本気で思っていた。 時間は数週間前に戻る。 いつものように公務が忙しかった。「この部分だが、君はどう思う?」 俺は王都にあるシュナイエ王国の王宮において、クレアに意見を求めた。 資料の確認をするためだ。「私は、殿下のご判断が最善だと思います」「そうか」 クレアは決断をしなかった。 俺の判断が正しいと言ってくれた。 それは嬉しくもある。 安心できるからだ「君の意見で確信が持てた。ありがとう」「いえ、殿下の考えは正しいですから。あなたは王太子ですので」「王太子、か。確かにな」 俺はちょっとクレアに笑みを見せる。 すると彼女も微笑み返した。「ふふ、そういったところ、魅力的です」「そう言ってくれると嬉しい」 クレアは肯定的に捉えてくれる。 それが俺の心を惹きつけた。 婚約者がいるのにな。 クレアは、迷うことそのものを否定しなかった。 それが、俺にはありがたかった。「そうだよな」 俺は彼女に対して、そう呟いた。 だからこそ、意見を訊くんだよな。(俺だって迷うよな)「クレア、ちょっと良いだろうか?」 何日かして、彼女に意見を求めた。 ちょっと遠慮がちに。「迷われていますのね」「ああ」 彼女は俺の様子を察して、優しく微笑んでいた。 少々安心する。「俺だってただの人間だからな」 先日クレアに言ってくれた事を返した。「勿論ですよ。迷われるのは、真剣だからだと思います」 クレアは頷きながら俺の事を肯定してくれる。「私としてはーー」 そして意見を言ってくれた。 俺は楽になった気持ちになる。「ありがとう。つっかえていたものが取れた気分だよ」
王宮に帰る途中、さらに雨脚は強くなっていた。 それでも俺は馬車の中だったのもあって、濡れることは無い。 馬車で来て良かったな。 俺は馬車の中で椅子に座って、考えてみることにした。 揺れる車内、それでも考える余裕は充分にある。「……失敗した」 ユリアナ嬢は謝罪を受け取らなかった。 拒絶して、『帰りなさい』って言われた。「だが、謝罪そのものが間違っていたわけじゃない」 ”謝罪は不要”って言われたわけじゃない。 受け取る準備はユリアナ嬢にもあった。 俺の準備が悪かっただけ。『はっきりとわたくしに理由をお伝えください』 ユリアナ嬢はそう言っていた。 だから受け取ってくれなかったのは、そこにある。「問題は、説明不足だ」 理由をちゃんと伝えられなかった。 それが敗因。 誰だって理由が分からなかったら、困惑する。「つまりーー説明すればいい」 ちゃんとユリアナ嬢に説明すれば、受け取ってもらえる。 許してもらえるだろう。 そうすれば、完璧だ。 馬車は王宮に着いて、そのまま中に入っていく。「殿下、お帰りなさいませ」 王宮に入ると、作業補助をしている青髪のクレア・ユングホルツと出会った。 彼女は長い間、王宮での仕事をしている。 ある程度は信頼が出来る。「出迎え、ありがとう」 軽く感謝して王宮内を歩いていく。「顔色があまりよくありませんね」 彼女は俺を見て、そう優しく言い表していた。 そう見えるのか。 確かにな、謝罪が上手くいかなかったから。「謝罪が上手くいかなかったんだ」 クレアは俺がどこへ何をしたのか知らない。 簡単に結果だけを伝えた。「あまり誠
俺は、人生で初めて土下座をした。 そして、その謝罪は完全に失敗した。(完璧だったはずだ。段取りも、時間も、言葉も) 俺はそう思っていたのだが、現実は上手くいかなかった。「いや、違うな。完璧だった”つもり”なだけだ」 だからこそ、だろう。 とある”成功例”を、俺は知っていた。 だがそれは、物語の中の話だった。 それをあの日、痛感することになった。 馬車がとある屋敷の前で停まった。 俺はゆっくりと馬車から降りて、玄関へと向かっていく。 従者はいない。 ペトリコールの匂いが鼻に入ってくる。 雨が降らなければいいが。 扉の前に着いたら、扉を叩いて開くのを待った。「どちら様でしょうか」 この家の使用人が出てきた。 ただ俺の顔を見ても、見当がついていないようだった。 まあ、当然だろうな。「レオポルドだ」「え?」 突然言ったからか、気づいていないようだった。「シュナイエ王国、王太子だ」「お、王太子殿下……大変失礼いたしました」 俺がそう言ったら、謝罪の後に一瞬だけ静寂が訪れる。 謝罪の後、使用人は驚きながら俺を見ていた。「ほ、本日は、その……?」 静寂が破れたのは使用人の緊張しながらの問いかけだった。「ユリアナ嬢に会わせてほしい」 彼女は公爵令嬢で、この屋敷に住んでいる。 俺の目的は彼女だった。「分かりました、中へ」 俺は使用人に案内されて、客間へ。「王太子がお越しになられたって!?」「紅茶をすぐに用意しなさい!」 侍女がバタバタと慌てている。 すぐにカップに淹れられた紅茶が出される。 湯